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青年団プロジェクト公演・平田オリザ作・演出『隣にいても一人』@こまばアゴラ劇場

同僚の誘いで平田オリザ作・演出『隣にいても一人』(於こまばアゴラ劇場)を観劇。
http://www.letre.co.jp/agora/line_up/2005_4/tonari.html
品川の実家から駒場東大前まで、山手通りをちゃりんこで突っ走って行って参りました。

そんなわけで、印象が薄れないうちに感想なんぞを少々。以下はネタばれがあるので、まだ見てない人はここでストップしてくださいね。

──  ※  ──  ※  ──  ※  ──


ちいさな和室の中央に置かれた、ちいさなちゃぶ台。
そこを中心に繰り広げられる、奇妙な話劇の小宇宙。

物語はどこかよそよそしさを残した、されどまったくの他人というわけでもないらしい、一組の男女の会話からはじまります。

さてこの会話、実にありふれた日常のひとコマのようでありながら、どこかちぐはぐな印象。のっけから「なんなの?」と耳をそばだててしまう。

二人は「夫婦」らしいのだが・・・うーむ、どう考えても、これは夫婦の会話じゃありませんよ。「急にこんなことになって、どうもすみません」。「いやいや、謝ることではないでしょう」(台詞うろ覚え)。なんだか互いにやたらと謝ったり、そうかと思えば「どちらが悪いんでもないですから」と慰め合ったり。うーん。

会話が進むにつれて、そもそも二人は姻戚関係、すなわち本来「義理の姉弟」であるということも分かってくるんですが──いやいや、君たちさっき「私たち夫婦だから」みたいなこと言ってたやん。何がどーなってんの。

そしてある瞬間、僕たち観客はとうとう気付かされてしまうのです。

この物語が、あの輝かしいモダンな文学的系譜、すなわち:

「朝起きたら虫になってました」(カフカ)
「朝起きたら名前がなくなってました」(安部公房)
「朝起きたら男女入れ替わってました」(山中恒)

という、あの「朝起きたら」文学(勝手に命名)の系譜に連なる、実にヒューマラスな「たくらみ」であることに。

まあそれにしても、これは斬新だと言わざるを得ませんよ。
「あのー私たち、朝起きたら夫婦になってました」。
えええええ?(笑

ああ、それはなんと甘くスリリングで、なおかつ無謀なハプニングであることか。

しかも彼らのお兄さん&お姉さんであるところの、もう一組の「夫婦」は、今まさに離婚するところであるのらしい。二人の話っぷりからするに、なかなか友好的な離婚協議をしているようですが・・・とにかくそんな話も含めて、彼ら四人のやりとりは、どこまでもありふれた《家族の日常》であることをやめない。であればこそ、「アニキと分かれても、まだ義姉さんは義姉さんのままですねー」なんてとぼけたことを言っている。ただひとつの事実、つまり「朝起きたら夫婦になっていた」と言い張る、二人の「ややちぐはぐな存在感」をのぞいては、です。

いや、その「ちぐはぐ」っぷりさえも、どうやら兄&姉からみると、二人=弟&妹ののんびりしたパーソナリティ(そんな感じが僕にはしましたが)に起因する、悪意なき「おふざけ」とも受け取れなくはないらしい。この状況下でとうぜん予想される、思わずニンマリな下ネタ的冗談を弟に向かって発する兄も、それほど根本的な疑問は感じていない様子。いや、どちらかというと楽しそうなんですね。離婚をひかえているこの二人の先輩夫婦は、なんだか楽しそうに、この新しい夫婦を眺めている。

この情景の暖かさが、この「不条理」な出来事をヒューマラスなものにしている。この作品が成功している主な理由です。

で、劇場を出た後、あるいは劇を観ている最中にすら、当然のように僕らが抱く疑問は「そもそも夫婦って何なんだ」、と。

人生というものが、すべてこれハプニングであるとすれば、「ある朝起きたら夫婦になっていた」二人の生きるハプニングと、「たまたま出会って交際した末に結婚した」二人の生きるハプニングとのあいだに、はたしてどれほどの違いがあるというのか。もしかすると、けっこう世の中にいるのかもしれませんよ。朝起きたら突然「夫婦」になっていた二人組。

作者である平田オリザ氏にとって、実はこれは彼の実体験に基づくものであった、という想像もできなくなはい──いや、むしろしたくなる。そういう作品です。

それにしても、別に平田氏がそのむかし「自転車で世界を旅していた」という事実へのオマージュではないんですが・・・前日も早稲田の下宿先から実家の品川までちゃりんこで帰宅、今日も駒場東大前を経由して早稲田に向かいつつあるこの私。ただいま新宿のベローチェで執筆中ですが、どうも鼻の中が真っ黒になっている予感がします。

僕もある朝目が覚めたら、少なくとも「虫になっている」よりは「誰かと夫婦になっている」方が1000倍はいい。そう思わされた素敵な時間でありました。

おしまい。

データ:
   作・演出:平田オリザ
配役:
   柳原義男・兄     − くらもちひろゆき(架空の劇団)
   柳原昇平・弟     − 臼井康一郎(ドラマクリエーターズ・プラシーボ)
   柳原春子・姉     − 高橋縁
   桜田すみえ・妹    − 角館玲奈

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